アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、1)ご両親あるいは兄弟にアレルギー体質(アトピー素因)をもち、2)痒みが伴う湿疹が、3)良くなったり、悪くなったりを繰り返し起こす皮膚の炎症です。「繰り返し起こす」期間を生後6カ月未満の乳児の場合、2カ月以上、または生後6カ月以降の乳児では6カ月以上とされております。
アトピー性皮膚炎の
悪化原因
アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能低下や過敏な免疫反応が起きやすくなっています。かさかさした皮膚のように皮膚バリア機能が低下していると外部からの刺激が容易に皮膚に入り込み、生まれつきアトピー素因を持っていると免疫反応が過剰に働いてアレルギー性炎症反応がおこり、かゆみが発生します。また、炎症が続くとかゆみを感じる神経細胞が皮膚表面まで伸びることで、敏感に痒みに反応してしまい、患部を掻き壊してしまうことがあります。皮膚をかくとさらにバリア機能が破壊されてしまい病状がさらに悪化してしまうという悪循環となります。その他の原因としては、過度のストレスや疲労、皮膚刺激などで炎症が続いてしまうなどが挙げられます。
症状
激しい痒みが伴う湿疹が現れ、良くなったり悪くなったりを繰り返します。赤みがある、皮膚が剥ける、ジュクジュクと湿潤液が出てくるなどの症状が起こります。乳幼児に多く見られるのが、頬やおでこ、耳、口、目の周り、首、肘や膝内側、脇などに発症します。アトピー性皮膚炎の悪い状態が続くと、皮膚が硬く分厚くなり、盛り上がることがあります。この状態を苔癬化(たいせんか)と呼びます。また、かゆみのために深い眠りにつけないと身長の伸びに影響することがあります。
治療方法
アトピー性皮膚炎の主な治療方法は、以下の通りです。
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正しいスキンケア(清潔に保ち、常に保湿する)
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ステロイド外用薬を中心とした薬物治療
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アレルゲンなど悪化因子を可能な限り排除する(環境づくり)
上記の3本柱がアトピー性皮膚炎の大原則です。アトピー性皮膚炎の治療は継続することが大切で、根気のいる治療です。
当院では、患者様が希望をもって治療を継続できるように適切な治療方法を提案しております。
治療効果を実感しやすいこと、治療を続けやすいことを心がけて、皮膚の状態を適切にコントロールします。
1)スキンケア
アトピー性皮膚炎の治療では、皮膚を清潔な状態を保つことと、保湿することが大切です。石鹸をしっかりと泡立ててしっかり洗った後、泡を洗い流します。アトピー性皮膚炎の皮膚には黄色ブドウ球菌などの細菌やウイルス感染を合併することが多いことがわかっています。もし、黄色ブドウ球菌が存在する皮膚にステロイド軟膏を塗布してしまうと、黄色ブドウ球菌による伝染性膿痂疹を起こしてしまいます。そのため、体をしっかりと皮膚をきれいにすることが大切となります。当院では、私がこれまで経験した数多くの患者さんから得られた知識をもとに適切なスキンケア方法を指導します。
また、湿疹のない皮膚でも保湿をすることで肌を外界の刺激から守ります。保湿は、医師と相談の上適切なものを選んでください。
2)薬物療法
保湿剤
アトピー性皮膚炎の皮膚は常に乾燥した状態、ドライスキンです。そのため、しっかりと保湿をして外界からの刺激から守らなければなりません。特に冬場など外気が乾燥している状況では、入浴後できるだけ早く保湿することをおすすめします。患者様の皮膚の状態を塗布場所によって、軟膏やクリーム、ローションなど適切な保湿剤を検討していきます。
ステロイド外用薬
アトピー性皮膚炎の基本となる治療薬で、免疫を抑え炎症を鎮静させる外用薬です。
皮膚炎の程度、部位により適切な種類・強さの外用薬を処方します。小児科で処方するステロイド外用薬の多くは、適切な量と期間において使用する分にはあまり副作用を心配する必要はありません。強いランクのステロイド外用薬の使用や、長期間にわたる使用では、皮膚萎縮や毛細血管拡張といった副作用の出現もみられるため注意が必要です。もし、強いステロイド軟膏を使用しなければならない場合、悪化原因が隠れていることがあります。
また外用薬はただ塗るだけでは効果が得られません。ケアをするご家族によりわかりやすいよう「塗布量」「塗布回数」「塗布期間」を明確にお伝えし、継続しやすく効果の実感できる指導を行います。
タクロリムス軟膏
(免疫抑制外用薬)
ステロイド外用薬と同様に強い炎症抑制作用があり、2歳以上の子どもで使用が可能です。ステロイド外用薬よりも有効成分の分子量が大きく、吸収されにくい外用薬です。そのため皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用がほぼないため、長期間の治療が必要な方には使用しやすい外用薬です。ただし、皮膚状態の悪いびらんを起こした部分からは吸収され安いので、びらん部位には使用できません。
使用初期には、熱感やヒリヒリ感、痒み症状が起こることがありますが、約1週間で緩和します。
新薬の対応
アトピー性皮膚炎の治療では、近年新しい新薬が保険適応となりました。
子どもにも使用可能なものは、PDE4阻害薬(外用薬)、JAK阻害薬(外用薬・内服薬)、抗IL-4/13受容体抗体(注射)、抗IL-31抗体(注射)などが最新治療に使われています。これまでのステロイド外用薬治療の他に、新たな選択肢としてご提案しております。これらの新薬は従来の治療にて改善しない場合に次の対策として考えられる薬剤です。使用には医師の正しい判断に基づいて使用します。医師と相談の上使用する薬剤です。
JAK阻害薬(外用薬)
・コレクチム軟膏
ヤヌスキナーゼ(JAK)という炎症を起こす細胞内シグナルを阻止して、痒みや炎症を改善します。ステロイド外用薬とは異なる作用で炎症を抑えます。ステロイド外用薬での改善が得られない場合に考慮する薬剤です。2023年より生後6カ月が経った乳児への適応も可能になりました。
JAK阻害薬(内服薬)
・リンヴォック・サイバインコ
JAKの作用を抑制することによりアトピー性皮膚炎の症状である痒みや炎症を抑える内服薬です。炎症性サイトカインの過剰生成を抑えます。12歳以上の子どもから使用できますが、全てのアトピー性皮膚炎の患者様に使用できるわけではないため、医師の判断が必要です。
PDE4阻害薬(外用薬)
・モイゼルト軟膏
モイゼルト軟膏が阻害するPDE4と呼ばれる酵素は、cAMPという物質をAMPに分解する作用をもっています。アトピー性皮膚炎の患者様は細胞内のcAMPの濃度が低下していることが判明しており、cAMPの量が減ると体の中で炎症を引き起こすサイトカインが過剰につくられるため炎症が悪化します。モイゼルト軟膏を外用することでPDE4を阻害しcAMPの分解を抑えて濃度が低下しなくなり、炎症を抑えることができます。効果としてはかゆみを抑える程度なので、ステロイド軟膏で改善した後の維持療法として使用することが多い軟膏です。2歳以上の幼児から使用できます。
薬の塗り方
外用薬は適切なスキンケアをした上で、適切な塗り方をしないと効果を得られません。
ただ外用薬を塗布するだけでは効果は得られません。また、身体の部分によって薬剤の吸収力が異なります。
アトピー性皮膚炎の症状改善のためにも皮膚の状態と部位によって、正しい外用薬の塗り方が必要となります。
ポイント
体表面積の約2%とされる、1FTU(フィンガーチップユニット)が基本です。
目安として、大人の手のひら2枚分の面積に塗るには、成人の人差し指の第一関節までの範囲に薬剤を取ります(約0.5g)。
また、以下のポイントに注意して塗布していきます。
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清潔で乾いた手で薬剤を塗っていきます。
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塗る際は、優しく丁寧に塗りましょう。
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皮膚の乾燥を防ぐためにも保湿剤を併用しましょう。
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手のひらに塗布する際は、吸収力が低いため入浴後がお勧めです。
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患者様一人ひとりに応じた最適な塗布量を心がけます。
気をつけていただきたい事は、上記の塗布方法はあくまでも目安です。皮膚の状態、季節による湿度の違いにより条件が異なるため、外用薬塗布量も異なります。外用薬は「肌がしっとりするくらい」塗布することが必要です。十分塗布しても1時間後には乾燥してしまうようでは塗布量が少ないと考えてください。
症状の改善と悪化を繰り返すアトピー性皮膚炎の治療は、継続することが大切です。外用薬治療によって肌が綺麗になっても、まだ皮膚内には炎症細胞が残っていて、再度炎症を起こす可能性が十分にあります。そのため、皮膚が改善しても塗るのを止めずに続けるプロアクティブ療法を行います。プロアクティブ療法とは悪化時に対応するのではなく、悪化しない状態をキープするための外用療法です。皮膚を良い状態を保つための条件(スキンケア方法と外用薬の塗布頻度)を見つけましょう。